その日の夜。イドはアリーシャが用意したという正装を着て、舞踏会に出る準備をしていた。
アリーシャは舞踏会の主催者とあってか、既に広間に出ているようだ。
そろそろ出ようか、と思った矢先、ノックが鳴り響く。
「誰だ? 今開ける……」
扉を開けようとした瞬間、何者かが扉の隙間からまるでところてんのように入ってきた。そしてイドめがけて突っ込んでくる。その拍子に二人とも倒れ込んでしまった。
「イドーーー! なんで僕に黙って舞踏会なんかに出るんだよ~!裏切り者!薄情者!」
「何言ってるんだレイ!ていうかこの状況、リーリアが見たら……」
「お兄ちゃん……?」
「!?」
おぞましいほどの殺気を感じ、咄嗟に扉の向こうを見ると、レイと呼ばれたところてん男の妹であるリーリアが立っていた。
「なにイドに抱き着いちゃってるの?お兄ちゃん……」
「何言ってるんだよリーリア、そうじゃないから……勘違いは良くな……」
「うっさい!馬鹿!変態!」
「ち、違うってば……い、痛い!杖で殴らないで!」
「落ち着け二人とも! リーリア、レイはそういうつもりじゃないから……許してやってくれ、な?」
イドの言葉でリーリアは我に返ったのか、「イドかそう言うなら許す……」と、杖をしまい立ち上がった。
レイはボロボロになりながらも笑顔でリーリアの頭を撫でている。それが照れくさいのか、リーリアは顔を赤くして俯いた。
「でもイド、抜けがけで舞踏会に出るのは酷いんじゃないか? 僕らは家で留守番だっていうのに!」
頬を膨らませながらレイは抗議した。彼は魔法学校理事長の息子ではあるが、招待状が届いたのは彼の父のみだった。
「アリーシャの頼みだ、仕方ないだろ……。それに、なんでレイは入ってきてるんだ? ここ、城の中だぞ?気安く入れるところじゃ……」
「へへーん、実は……」
「私の元には姫様直々の招待状が届いたの!そこに、お兄ちゃんも連れてきていいよって書いてたから来たんだよ!」
「あー、ちょっと言うなよ……。」
露骨に残念そうにするレイと、勝ち誇ったように笑顔になるリーリア。
「そりゃ良かったが……じゃあ俺は恨まれる筋合いはないよな?」
「何言ってるんだよ!イドが警備する中、見せつけるようにワインを飲んでやろうと思ってたの!」
「レイ、お前未成年だよな?」
「メロンソーダだよね?お兄ちゃん。」
「……クソー!僕だけなんだか負けた気分だ!」
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