舞踏会二日目の朝。イドはアリーシャに呼び出され、城の庭園まで来ていた。
「大事な用ってなんだ?」
アリーシャはその質問に、イドの目をまっすぐに見てこたえる。
「各地で起こっているくそもんの暴動は、イドも把握していますよね?」
「あ、ああ。兵士長から『街中で起こらないように注意しておけ』と言われた。」
イドは城の警備にあたっている近衛兵だが、くそもん暴動が城にまで及ばないように警戒する必要があった。
「お願い……いいえ、これは命令です。そのくそもん暴動……原因を突き止めて来てください。」
アリーシャの表情は、とても悲しそうだった。庭園に吹き込んだ風が、アリーシャの長い髪を撫でる。
「仰せの、ままに……」
イドはアリーシャの前に跪く。これは、リインのしきたりであった。
「兵士を何人かおつけいたしますわ。……あまり人員は裂けませんが。」
アリーシャは、尚も悲しそうな表情で話す。
「折角だが、俺一人でいい。……いつ出発だ?」
「今日中にも、出発していただけると……」
とても言いにくそうに答えたアリーシャに、優しく微笑みかけるイド。
「わかった。すぐに出発するよ。でも、ほら顔を上げてくれないか? アリーシャには、涙は似合わないよ。」
イドは、涙をボロボロと零すアリーシャを抱きしめた。体温が伝わる。
「きっと無事で……帰ってきてください……」
イドは無言でアリーシャを離すと、ゆっくりと庭園から出て行く。
アリーシャは涙を流しながらイドの背中を見つめ、小さく呟いた。
「さようなら、イド。」



イドには全て分かっていた。アリーシャでさえ、王には逆らえないのだということを。王にとって、自分は目障りな存在であるということを。アリーシャの好意が、王の殺意になったことを。
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